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対談:福嶋浩彦・今井一
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   更新:2008/02/16
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【対談】福嶋浩彦・今井一
2008年2月8日(金) 東京財団にて
◆なぜ住民投票の実施を求めたのか

今井 一: 去年の8月に滋賀県大津市で常設型住民投票条例を考えるシンポジウムを開きました。その時に、首長発議について議会の同意を必要とすべきか、議会の同意はいらないとした方がいいのか、参加者の間で活発な意見のやり取りがありました。
実はその前、2006年8月に行われた「住民投票の10年」(住民投票立法フォーラム主催)というシンポでも、住民投票を終えたばかりの岩国の井原勝介市長や国立の上原公子市長らが、新藤宗幸千葉大教授とこの一件でやりあったんですよね。
議会の同意を得ずとも市長発議で住民投票を実施できる仕組みが望ましいとする井原さんや上原さんに対して、新藤さんの持論は、簡単に言えばそもそも住民投票制度における首長発議権はなくてもいいんだということです。
まあ、この問題がずっと積み残されたままなので、「情報室」としてはそろそろ結論を出そうということで、この対談を企画しました。
で、福嶋さんはですね、首長発議は認めるべきだけれど議会同意を条件とすべしと主張されてます。なぜそうお考えになっているのでしょうか。

福嶋浩彦: そうですね、現在の地方自治体は二元代表制をとっていて、自治体の決定機関―自治体の意思を決定するのは議会なんですね。
その議会の自由な意思決定を、住民投票は「制約」するわけです。つまり、住民投票の結果を尊重する義務を議会に課します。議会が自由に意思決定するのを、住民投票で制約するわけですね。
そういう、議会の自由な意思決定を制約する住民投票を、議会の意思に反して実施させる事が出来るのは、主権者である市民だけだと考えます。
首長が、議会の意思に反して、議会の自由な意思決定を制約する住民投票を実施するというのは、二元代表制の下で首長と議会が互いに牽制する関係―チェックアンドバランスからみて適切ではないでしょう。そういう制度は、きわめて慎重に扱わなければならないと思っています。


今井: なるほど。議会の自由な意思決定を、住民投票の結果によっては制約することになると。で、そういう住民投票を議会の拒否にあわないで実施させるというのは、主権者である市民の連署による請求しか許されてはいけないと。

福嶋: 住民投票条例に基づく請求ですね。

今井: それが我孫子の場合だと、投票資格をもっている人(18歳以上の日本人、永住外国人)の8分の1以上の署名で請求したら、議会も首長もこれを拒否できないと、やらなければいけないということですね。
実は、昨日、私たちは京都で会員懇談会を開いたのですが、そこに来られていた人のほぼ全員が「議会の同意が条件となると、首長提案による実施なんて出来ない、常設型住民投票条例を制定する意味がない」と言ってたのですが、それに対する反論というか批判は。

福嶋: いや、常設型住民投票条例というのは、主権者である市民が請求したときに議会や首長が拒否できないようにする条例であって、首長が求めたときに議会が拒否できないようにすることが目的の条例ではそもそもないですよね。首長が自由に実施できないと「常設型条例を制定する意味がない」というのは、常設型住民投票条例の一番基本的な意義が理解されていないのではないでしょうか。

今井: つまり福嶋さんが我孫子で制定されているような条例と、一般的に今こういう常設型条例がないところで、地方自治法に則って住民投票条例を制定するときの決定的な違いは、市民が一定数の連署による請求をしたら、議会も首長も拒否できない。ここが決定的な違いですよね。
先ほど言った首長提案について言えばですね、これはやっぱり議会に拒否権があるわけですよね。議員提案についてもそうですが。

福嶋: そうです。

今井: で、ここが常設型住民投票条例の真髄というか、本旨というか、というふうにお考えになっているという事ですか。

福嶋: そうですね。
 実際に常設型住民投票条例という考え方が出てきたのは、個別の住民投票条例の直接請求を自治法に基づいて住民がやってきて、否決の山が築かれてしまって、そういうことでは駄目だっていうところからだと思います。ようするに住民の意思と議会の意思が食い違っているんではないかっていう状況のもとで住民は請求するわけだから、そのときに議会が住民投票の請求を認める可能性は少ないのです。無くはないですが――四街道市議会は認めましたからね。
でも議会が認めないことが圧倒的に多いので、制度としてちゃんと議会が拒否できないようにしておこうと。主権者である市民が請求した場合にね。ということで常設型条例が制定されてきたと思うんですね。首長が議会に拒否されないための制度では、そもそもないと思います。
ただ一方、実際に合併の問題など、議会も首長も一致して個別条例を作って住民投票をやっているケースが多いわけです。常設型条例があっても、そういう場合に住民がいちいち請求しないと住民投票が出来ないとか、あるいは、首長や議会がまた別に個別の条例を作らないと出来ないというのでは不合理だから、常設型条例に首長や議会による手続きでも実施できるという条項を組み込んだということです。
そこに、首長が議会の意思に反してやれるようにという目的をすべり込ませるのは、おかしいと思うんですね。


今井: なるほど。
先ほどお話しした京都での懇談会では米原、愛荘、生駒、箕面、徳島等々、現職の首長や議員が参加されたんですが、皆さんが言うのは、そりゃあ福嶋さんが言う事は理想的だと。首長が住民投票の実施をあるテーマで提案しようとして議会が同意しなかったら、市民の連署による請求でやり直したらいいじゃないか。これでやれば議会は実施を拒めないし問題はない、と言われるけれど、問題点があるというんですよ。
例えば岩国市の時のように、市町村合併が目前に迫っていて署名集めなんてしてる時間が無いと。そんな場合はどうするのかということなんですが。

福嶋: 時間が無いって、岩国の話ですか? 合併が迫っていたから?

今井: 市町村合併が迫っていたから。旧岩国市で制定された常設型住民投票条例は新岩国市では失効しますから、それがある間にやらなければいけなかったと。それで、署名による求めがあったら、議会は実施を拒否できないという項目はあるんですけれども、署名集めをしているうちに新岩国市に移っちゃうから、事実上出来なくなってしまうと。だから首長提案にしたということです。

福嶋: それはもう、極めて特殊な事情ですよね。合併で条例が失効するまでに間に合うか、間に合わないか。そんな特殊なケースを想定して条例の重要な中身を決めるなんて、ちょっとあり得ない。
もちろん、住民の請求には時間がかかるということは、一般的にありますよね。その間は、市長と議会が、自らの意思を貫けばいいでしょう。だって住民投票がなければ首長が行動できないとか、議会が決定できないっていうものは何一つ無いですから。
 だから市長なら市長が、例えば米軍基地の問題についてもきちっと意思表示して、リーダーシップを発揮し、そのあと住民投票をやって、改めてその投票の結果によって市長の意思を引き続き貫くか、変えるかっていう判断をすればいいでしょう。時間がかかるから絶対に駄目だってことではないはずですよね。


今井: ただ、基地の問題以外でもね、緊急に是非を、決着つけなくてはいけない問題が出てくることもあると。しかもそれを、市長は議会だけに任せないで、住民投票で決めたくなるようなことが出てくるかもしれない。そうすると、とにかく、例えば3月末までにどうしても住民投票をやりたいといった場合に、例えば今くらいのこの2月8日というタイミングだったら、首長が提案してさっとできるなら、これ、出来るわけですよね、住民投票が。
 しかし、多くの人に署名を集める受任者になってもらって、署名を8分の1集めるとか、6分の1集めるとかやっていたら、それだけでも3月末になっちゃうから・・・。
 と、いう首長をされる人がいるんですよ。

福嶋: 抽象的な話では説明しにくいですが、その時に首長は住民投票をやった方がいいという判断をし、議会はやらない方がいいと判断したということですよね。だとしたら、首長の判断の方が正しいっていう保証は、誰が与えるんですか?
 市民がちゃんと請求したときに、はじめて首長や議会の意思にかかわらず実施させる事が出来るわけです。首長の意見と議会の意見が食い違っているときに、首長のほうが正しいっていう前提で、自治体の本来の決定機関である議会の決定よりも首長の決定を優先させるのは危険なんじゃないですかね。


今井: なるほど。で、もうひとつはね、市民の連署による請求によってやればいいっていうけれども、そんな経験ない人がほとんどだから簡単には署名集めを進めてくれるとは思えないと。だから、自分は――これは元米原町長の村西俊雄さんですけれども――町長として、合併問題を住民投票で決めようと、市民からの請求を待つんじゃなくて、自らのリーダーシップでやったのは今でも正しいと思っていると。だから、そんなこと一々その市民が動くのを待つとか言ったって、それは特別の、ごく少数の自治体の、もうちょっと進んだ市民だったら可能だけども、ほとんどの自治体の市民は無理だから、それは理想でしかないと言うんですよね。どうですか。

福嶋: だから首長が提案する、議会が発議するという話はわかりますよ。でも、首長が提案すれば、議会は反対でいい、という話はまた別です。
首長はやった方がいいと考える。議会はやらない方がいいと考える。そのとき住民は、主権者たる市民は特に請求しない、住民投票をやれとは言わないという事でしょう。個人的に言う人はいても、ちゃんと請求する制度はあるのに、それに基づく意思表示はしないということでしょう。だったらやれないでしょう。


今井: 市民がやる気がないんだったらしょうがない、ということですね。

福嶋: ええ。
 議会はやるなと言っていて、首長はやるって言っていて。そのときに首長の決定の方が優先するっていうのは、普通はないでしょう。予算だって条例だってみんな議会の決定が優先するんじゃないですか。


今井: 今、議会と首長はですね、二元代表制であるのに、議院内閣制みたいになっちゃってるわけですよね。つまり議会の多数派と首長が一体化しているというか。
 しかし、うちの「情報室」に参加されている方というのは、どちらかというと、議会少数派の首長さんが多いんですよね。それは、国立市長だった上原さんにしてもそうだし、岩国の井原さんにしてもそうだし。
 で、彼らは、自分たちの立場から言うとですね、議会なんてとんでもないとなるわけです。でも、それが事実であったとしても、制度論的にいえば福嶋さんが主張されているようなものでいかないと駄目だということですね。

福嶋: ええ。
私も上原さんや井原さんと同じように、あるいは皆さん以上に2元代表制にこだわり、議会とは厳しくやりやってきました。住民投票条例は通しましたけど、私の提案が議会で否決されたことはたくさんある。でも、それはそれであって、市長が議会を無力化させる方法を考えようっていう話は、決定的におかしいと思いますよ。
市民派の首長の中には、自分は市民の側で、議会は反市民の側だっていう意識があるんじゃないですかね。


今井: でしょうね。

福嶋: 首長になった以上は、市民派市長だって権力者だっていう事を、きちっと自覚をしないといけないんじゃないですかね。
私も心の中では、常に自分が市民の側だという自負を当然持っていましたけど、実際の権限を行使するとき、「市長は市民の側で、議会は反市民の側」だって市長が自分で決めてはだめでしょう。それでは市民派であっても、極めて危い存在になってしまいます。
そうなると住民投票自体、主権者としての市民の意思を直接問う民主主義の大切な制度というより、市長が「反市民の」議会を抑え、「市民のために」自分の政治主張を実現する手段へと変質する危険性さえあると思うんですよね。少し厳しい言い方ですが。


今井: そうならないためには、とにかく基本は住民からの署名による請求なんだということですよね。

福嶋: はい。

今井: 住民の請求が本質であって、で、これを議会も首長も拒否できないというところが何よりも本質的で、ここを生かしていこうということですよね。

福嶋: ええ。 それを純化させると、新藤先生の主張になるんでしょうけれども。
ただ合理的に判断して、議会も首長も住民投票をやった方がいいって言っているのに、常設型条例ではやれないという、そういう制度設計にする必要はないんじゃないかというのが私の考え方です。


今井: 常設型住民投票条例に新藤さんの主張のように首長の発議権を盛り込まなかったとしても、地方自治法に則ってそれは出来ますよね。例えば、議員提案は認めない、首長提案も認めない、市民の連署による請求しか認めないという常設型住民投票条例が存在したとしても、首長や議会はやりたければ現行の地方自治法に基づいて、条例制定を提案すればいいわけですよね。
だから、新藤さんはそこを言いたかったんです。現状で出来るんだから、常設型住民投票条例の中にわざわざ議員提案、首長提案ができるということを記す必要がないと言われたんですよ。今、瑕疵というか制度上の不備があるのは、いくら署名を集めたって議会に拒否権があることで。一定数の連署が達成されたら必ずやらなければいけない、というのを常設型住民投票条例の中に盛り込めば、あとの議会提案とか首長提案については盛り込む必要はないっていうのが、新藤さんのお考えなんですがそれはどうですか。

福嶋:  私が考えたのは逆で、常設型に入れなくても別条例を作ってやることは出来る、だったら盛り込んでおけばいいでしょうと。たしかに、盛り込む事によって「首長が議会の同意なしで」という今のような傾向が出てくるんならば、入れないというのも一つの考え方かもしれませんが・・・。

今井: どうせ出来るんだから。

福嶋: ええ。
だから、それは個別の住民投票条例でやるのと同じ要件ですよってことです。議員提案して可決するか、首長が提案して議会が可決する。それと同じ手続きを入れておくってことです。本来の常設型は住民請求がベース。でも、個別条例を市長が提案して議会が可決するというやり方もある。常設型住民投票の条例をつくるなら、せっかくだからそれも加えておこうという事なんですよね。


今井: なるほどね。

福嶋: 個別条例でやるときに、市長が提案すれば議会は否決したって条例が成立するっていうことはないですよね。常設型でも、主権者である市民が請求するから議会は拒否できないんであって、市長が出したものを議会が拒否できないっていう制度はおかしいと思うんですよ。

今井: わかりました。こうした常設型住民投票条例が各地で制定されるというのは大歓迎だし、どういう形で制定されてもいいんだけれど、できれば市民の方から求めがあってやる方が望ましいですよね。

福嶋: ええ、そうですね。

今井: それでね、さっきも言いましたが、常設型住民投票条例は日本の地方自治法上の制度的欠陥を補うものだと思います。これはこれで意味のあることですが、われわれは、平行して地方自治法を変えるということを国会に求めるということも考えなければならないと思うんですよ。つまり簡単に言ったら、例えばドイツの自治体ではですね、リコールの制度と条例の制定・改変のルールが全く同じです。

日本のリコール制度 日本の条例の制定・改変制度
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そこで、福嶋さんにお伺いしたいのは、日本の条例の制定・改変のルールをですね、リコールと同じにするっていうのはどうですか。

福嶋: はい。地方自治法をちゃんと改正する、それは一番ベストだと思いますよね。

今井: なんで学者が戦後の新自治法制定から60年経っても声をあげないんですか。

福嶋: 何で要求しないんですかね。

今井: 不思議でしょう。

福嶋: でも、まず「情報室」が要求しないとだめなんじゃないですか(笑い)。人が要求しないと文句言っていてもしょうがないから。「情報室」から声を出していったほうがいいと思います。

今井: リコールについては議会の解散や首長・議員の解職を請求して拒まれたら住民投票になるけども、条例の制定・改変については、おまえら請求権はあるけど、決定権はないよ。議会がこれを拒んだら終わりだよと。このおかしなルール変更がなされると、住民の主権者としての意識のみならず主権者力がだいぶ変わってくる。リコールだけじゃなくて条例の制定・改変も非常に現実的になるわけですよね。そうすると自分たちがその当該自治体にのみ適用される成文法である条例をね、自分たちが制定して改変するということが、すごく身近になってくると思うんですよ。

福嶋: そうですね。さらに一つ別の角度で理想を言えば、地方自治法は「地方自治基本法」にして、自治体運営の具体的な制度設計は、各自治体が自治基本条例でそれぞれやるようにした方がいい。今の地方自治法のように、全国の自治体運営の仕組みを一律に細かく定めるのはやめにしたらどうかと思うのです。

今井: 自由にやればいい。

福嶋: そうすれば各自治体の判断で、条例の制定・改変の直接請求をリコールと同じルールにして、否決した場合は住民投票にかけるという制度を入れていけるわけです。これが理想だと思うんですね。ただ、今の自治法がある以上は、自治法の改正を求めていかなければなりませんね。

今井: なるほど。
さて、昨日(2月7日)京都で開かれた情報室の会員懇談会で、首長発議については「議会の同意が必要」「議会の同意は不要」の両論を示し、「情報室」として統一した模範例を出さないということになりました。そのことについては?

福嶋: まあ、私はおかしいと思うけれど、ただ、情報室の対応としては適切なんじゃないですか。情報室の中で意見が分かれているわけですからね。

今井: 他の部分はそのまま。首長発議の部分は両方書いておき、最終的にどちらを選ぶかは個々の自治体でそれぞれ考えて下さいと投げかける。他は自信を持ってお薦めするとします。

福嶋: わかりました。

今井: きょうは、ありがとうございました。

── 以上。

プロフィール

福嶋浩彦(ふくしまひろひこ)
1956年鳥取県生まれ。81年筑波大学除籍。83年我孫子市議会議員。95年38歳で我孫子市長に。2007年1月、3期12年で市長を退任。
この間、全国青年市長会会長、福祉自-治体ユニット代表幹事などを務める。市補助金の公募と市民審査、常設型住民投票条例の制定、コミュニティビジネスの育成、市民債による自然環境の保全、提案型公共サービス民営化など、市民自治を理念とした自治体経営に取り組む。
現在は中央-学院大学客員教授。早稲田大学パブリックサービス研究所客員研究員、東京財団研究員。
著書に「市-民自治の可能性―NPOと行政」(ぎょうせい・2005年)

今井 一(いまい はじめ)
1954年、大阪市生まれ。ジャーナリスト。
89年以降、東欧やソ連、ロシアの「民主化」に伴い実施された「連邦存続」「国家独立」や「新憲法制定」に関する国民投票を現場で見届けたことを契機に、巻町や名護市、徳島市など日本各地の住民投票や、スイス、フランスなどで実施された国民投票の現地取材を重ねる。
著書に『住民投票』(岩波新書)、『「憲法九条」国民投票』(集英社新書)、『「9条」変えるか変えないか─―憲法改正・国民投票のルールブック』(現代人文社/編著)など。

 
 
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