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リコール運動が進む 阿久根市、名古屋市
「二元代表制」と「住民投票」について考える
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   更新:2010/10/05
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リコール運動が進む 阿久根市、名古屋市
「二元代表制」と「住民投票」について考える
(本会事務局長 今井 一)


2010年10月5日


 わが国は、国政においては議院内閣制をとり、地方自治体においては、首長と議員をともに住民が直接選出する二元代表制をとっている。
 首長と議会は住民の代表として牽制し合いながら予算を決めたり、条例を制定したりするのだが、本気で首長をチェックする意思のない議員が議会の多数を占めると、事はスムースに進むがそれは「馴れ合い」にほかならず、そのツケは必ず住民に回ってくる。
 二元代表制下での馴れ合いの事例は全国の自治体に数多あるが、他方、首長と議会が極めて厳しく対峙している阿久根市や名古屋市の例もある。
 阿久根市では、竹原信一市長が議会の招集を拒否して専決処分を乱発し、事実上、二元代表制を否定。業を煮やした阿久根市民が「市長解職(リコール)」に立ち上がった。すでに法定数をはるかに上回る連署を集めており(選管認定)11月中にも市長解職の是非を問う住民投票が実施される動きになっている。
 
 名古屋市では河村たかし市長が、選挙時の公約である「市民税10%減税」及びかねてからの主張である「議員報酬の削減」などをめぐって議会と根深く対立。市長自身が「議会解散(リコール)」を市民に呼びかけ、彼を支援する市民団体が中心になり直接請求に足を踏み出した。
 「議会解散請求者署名簿」に記された10人の請求代表人の中に、法的規制により河村氏は入っていないが、実質的には、彼の顔、彼の名前で署名を集めたと言うべきで、選管に提出した署名数は直接請求に必要な法定数(36万5795人)を上回る46万人に達した。
 今後、選管の審査などで無効署名を弾くことになるが、それが2割を越すとは考えにくく、年明け早々に議会解散の是非を問う住民投票が実施される可能性が高い。巨大都市名古屋において、こうした経緯で住民投票が実施され、議会解散に賛成する票が多数となれば、戦後の地方自治史における最大級の事件となる。
 
 
 名古屋市議らは、こうした河村市長の動きについて、当初から「二元代表制を否定するもの」と批判してきた。だが、私はその批判をそのまま議員諸氏に向けたい。
 というのも、議会は河村氏が独裁的で誤っていて市民のためにならない市長だと批判しながら、市長不信任の議決を為さないでいる。不信任決議をしてこその「二元代表制」ではないのか。彼らが不信任決議を為さない理由は明白だ。
 地方自治法により、首長は自身の不信任決議が為されたときにかぎって議会を解散させることができるので、決議をすれば「議会解散」で返されると市議らは怖がっているのだ。そんな「個人的な理由」で不信任の権限を行使しない議会。その点から考えれば、「二元代表制」を否定しているのは市長ではなく、議員のほうではないのか。
 とはいえ、河村市長の手法にも問題がある。彼が主張する「市民税の減税」「議員報酬の削減」などは市民から圧倒的な共感を呼んでおり、市民の代表として実現に努めたいという思いはわかる。ただし、市長は二元代表制におけるもう一方の市民代表である議会の承認を得なければならず、議員への説得などそのための努力を重ねなければならない。さしたる時間と労力を費やすこともなく、自分の公約を通さないからと、議会解散を市民に呼びかけるのはどうだろうか。
 市民に直接請求権を行使させ、議会解散(リコール)の是非を住民投票で決するというのは、一つの方法ではある。だが、最善の方法だとは思えない。
 重要案件に関して、市民の代表である市長と議会の意見が対峙し、どうしても折り合いがつかない場合、リコールによってどちらか一方の代表機関を「削除」するのではなく、懸案となっている問題について住民投票で決着をつけるというのが最善の策だと私は考える。
 もしかすると、河村市長は、例えば「議員報酬の削減」の是非を問う住民投票を実施するための条例制定を提案しても、その制定権は議会が握っているので叶わないと考えたのかもしれない。だとしても、試みるべきではなかったか。議会が条例制定=住民投票の実施を拒んだ後なら、市民への「議会解散」の呼びかけも、より正当性を増したはずだ。
 二元代表制を機能させるには、首長と議会の「リコール(削除)合戦」ではなく、住民投票の活用という道をとるべきだ。ただし、そのためには、本会が一貫して主張している住民投票の法制化が不可欠で、3分の1()の署名を集めればOKのリコールと異なりどれだけ多数の署名を集めても[条例制定=住民投票の実施]を議会に拒まれる現行制度を改めなければならない。
 新潟県巻町の住民投票以降、条例制定に基づく住民投票は397件実施されている(2010年9月末現在)が、その裏で460件もの住民投票を求める直接請求が否決されている。中には、有権者総数の半数近い署名を集めながら否決された例がいくつもあり、これでは、主権者である市民の出番は排され首長と議会の空中戦に終始してしまう。
 大阪府の橋下徹知事は、二元代表制を「議会内閣制」に転換すべきだと主張しているが、議会の多数派と対立している「府庁移転問題」については、次のように語っている。
 「僕と議会のどちらも100%府民の意見を代表しているとは言えない。住民投票か何か、最後は府民の意思で決着を図らせてもらいたい」
 この発言に関しては大いに賛成する。主権者である住民が首長を選び議員も選ぶという二元代表制において、重要事項に関して首長と議会の意思が決定的に対峙する場合、解決方法としては主権者が住民投票によって決定するのが最良であり、私は府民投票の実施に賛成だ。
 橋下知事はこの問題について一年前には「自分が知事を辞め、知事選挙によって信を問い決着を図りたい」と発言していたが、そんな「人気投票」的色彩の濃い民意の汲み取り方より、案件に対する是非を問う住民投票のほうが、市民全体が学び、議論する機会も増えるし、よほど良質で正確な民意をつかめる。
 近年、学者や専門家の中には、二元代表制を機能させることは元々難しく、これを廃し「議院内閣制」や「支配人制」といった多様な組織形態をとる道を探るべきだと主張する人が現れている。一考には値する。ただ、住民投票制度を確立し、各自治体がこれを積極的に活用することが先。重体に陥っている二元代表制が、それで息を吹き返すと、私は考えている。

※追記(10月6日)橋下知事は、早くも府民投票の実施を否定する発言⇒
http://sankei.jp.msn.com/politics/local/101005/lcl1010051255003-n1.htm

有権者総数の3分の1。ただし、総数が40万を超える場合にあっては、その超える数に6分の1を乗じて得た数と40万に3分の1を乗じて得た数とを合算して得た数。



 
 
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