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イタリア/原子力政策の選択に関する国民投票(87年)
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   更新:2011/03/27
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原発は、東京や大阪など大量の電力消費を行う自治体・地域ではなく、地方・田舎に「設置」している。福島、柏崎などその受け入れ先が存在する最大の理由は「交付金」。イタリアではかつて(1987年)、原発そのものの是非ではなく、交付金を廃止するか否かの国民投票を実施した。わかる人はわかるだろうが、電源立地に関する交付金制度を廃止すれば、自ずと新規の原発建設は不可となるのだ。私は、日本でもこうした国民投票を実施すべきだと考えている。イタリアでのこの国民投票について、わかりやすく解説する。
 
イタリア/原子力政策の選択に関する国民投票(87年)
2011/03/27
今井 一(当会事務局長)


 イタリアは天然資源に乏しく、エネルギー自給率は2割以下。欧州最大の石油依存国となっている。このため、政府は88年2月に国家エネルギー計画を改定。原子力の積極的な導入と石炭の活用により、石油への依存度を大幅に減らす方針を打ち出した。
 イタリアには87年現在、稼働できる原発が3基、建設・計画段階のものが4基あったが1986年4月のチェルノブイリ事故をきっかけに「原発の安全が保証されるまでは不可」と、稼働可能な3基も運転を停止している。
 また、フランス国内に伊仏共同の原発「スーパーフェニックス」の開発に1兆2000億円もの費用が投じられたが、日本の福井県に設置されている「もんじゅ」と同じナトリウム漏れなどのトラブルの連続で、92年に開発を断念した経緯がある。
 そのイタリアで、ソ連のチェルノブイリ事故後、原子力の是非を問う国民投票の実施を求める署名運動が加速した。署名運動は、環境保護グループが中心となり、右派の急進党および社会民主党が後援する形で進められ、50万人を超える署名数が集まった。同案件の有効性をめぐり憲法裁判所で審理されたが、1987年1月に同案件を国民投票に付すことに合意する判断が示された。
 こうした流れの中で、原発建設における政府権限の制限など5つの問題についての賛否を問う国民投票が、87年11月8、9日の両日、全国85000の投票所で行なわれた。この日、国民投票の対象となった案件は5つで、うち3件が原発関係だった。

(1) 地方自治体の承認がなくても、イタリア政府はどこの地域にも原発を建設できることを定めた現行の法律を廃止すべきか?
(2) 同様に、原発受け入れに合意した地方自治体にイタリア政府が交付金を出せるという現行法は廃止すべきか?
(3) イタリアが、国外での原発建設に参加することを禁止すべきか?
(4) 裁判官の誤審追及を禁じている刑法の3つの条項を廃止すべきか?
(5) 司法問題に関して国会調査委員会の権限を強化すべきか?

 (1)、(2)に記された法律は、1981年に改定された第2次国家エネルギー計画を遂行するため、1982年に制定されたもので、石油火力発電所に代わる代替電源として、原子力、石炭火力、地熱火力などの新規立地を誘致する州および地方自治体に対し政府が財政援助を行うことを目的としていた。
この(2)の交付金制度は日本でも存在し、国や電力会社はこの「交付金」を餌に自治体や地域住民の同意を得、原発設置を重ねてきた。

 国民投票は1987年11月8,9両日に実施された。
 投票の結果、原発問題をめぐる賛否では、現行法の廃止に「賛成」する国民が、
 (1) 80.6%
 (2) 79.7%
 (3) 71.9%と、いずれも圧倒的多数となり、3法とも廃止が決定した。

 国民の「脱原発」の意思は、政府に「原発廃棄」を含めたエネルギー政策の転換を迫ることになった。
 ゴリア首相は、この国民投票の結果を受けて、同国内での原発建設を当分の間凍結すると発表した。また、イタリア国会は、ゴリア政府が提案した「原発建設計画の廃棄」、「建設中の原発の建設中止を含む原発モラトリアム法案」を、賛成350票、反対203票の賛成多数で可決した。
 その後政府は原子力政策原案をとりまとめ、イタリア議会に提出。同議会は1987年12月18日、政府原案を承認。これにより、イタリアの原子力計画は大幅に縮小されることになった。
 この結果、1990年までに全4基の原発および燃料加工など関連施設を閉鎖した。だが、当初に計画していた火力発電所の建設は進まず、輸入電力の比率が大幅に増大。フランスとスイスへの依存に加え、総発電設備容量の75%が石油と天然ガスに依存していたため、イタリアの電気料金はEU内で最高レベル(EU平均の1.6倍)となった。
 2003年6月、猛暑による需要増、渇水による水力発電供給量の減少で供給不足となり、ついには全国的な輪番停電措置をとらざるを得なくなる。そして、9月28日には、イタリアとフランス、スイス、オーストリアとを結ぶ高圧送電線の断絶が原因で、ほぼ全土が停電する事態となり、、電力供給体制の脆弱性が露呈した。
 それでも、原子力から完全撤退したイタリアは2004年7月、「エネルギー政策再編成法(マルツァーノ法)」を制定。イタリア電力公社(ENEL)は自国への電力供給を目的としたスロバキア、ルーマニアなど諸外国の原子力発電所へ投資する道を選んだ。


「イタリアの原発最新情報」(朝日新聞より)

イタリア、原発再開計画1年間停止へ
2011年3月23日9時34分

 【ローマ=南島信也】イタリア政府は22日、閉鎖している原子力発電所の再開に関するすべての計画を1年間停止する方針を固めた。ロマーニ経済発展相が明らかにした。23日の閣議で正式に決定する。福島第一原発の事故の影響で、原発への不安がイタリアでも広がっていることを受けた措置とみられる。

 同国では、1986年の旧ソ連・チェルノブイリ原発事故後、国民投票で当時の原発関連法を廃止。すべての原発が廃止され、建設計画も凍結された。

 しかし近年、産業界を中心に原発再開を求める声が強まり、ベルルスコーニ政権は脱原発政策を転換、2009年2月にフランスと協力協定を結んだ。13年までに原発建設に着手し、20年までに最初の原発を稼働させる計画で、すでに法律も成立している。

 ところが再開に反対する野党などが署名を集め、国民投票の実施を求めて憲法裁判所に提訴。同裁判所は今年1月、法律の存廃を問う国民投票を6月中旬までに実施することを命じる判決を下した。




筆者プロフィール
今井 一(いまい はじめ)
ジャーナリスト。 「[国民投票/住民投票]情報室」事務局長。
著書に『「憲法九条」国民投票』(集英社新書)、『「九条」変えるか変えないか―憲法改正・国民投票のルールブック』)(現代人文社)、『住民投票 ─観客民主主義を超えて─』(岩波新書)など。

 
 
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