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[寄稿] 国民投票法施行2年
  ~法が残した宿題を済ませ、
    難題を解決しよう~
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   更新:2012/05/14
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[寄稿] 国民投票法施行2年 
~法が残した宿題を済ませ、難題を解決しよう~
南部 義典
▼はじめに

 日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票法)は、2012年5月14日、成立から5年が経ちました。18日には公布から5年、全面施行から2年となります。
  国民投票法は、「この憲法を施行するために必要な法律」(憲法100条2項)の一つとして、本来であれば憲法の施行と同時に(ないし、施行後できるだけ速やかに)制定されるべきものでしたが、様々な政治・社会的事情のなかで機運が熟さず、法が制定されるまでに60年を要したわけです。
  何百年、何千年と永続するであろう憲法の歴史からすれば、60年という期間は誤差のようなものです。
  しかし、いまの時代を生きる私たち(主権者)が、立憲主義に基づくこの国の政治体制を主体的にデザインし、立憲主義を発展させていく役割を深く自覚するためには、「国民主権」とはどういう意味なのか、「国民投票」の意義は何かなど、過去60年間のうちに為すべきだったであろう、憲法の本質にも関わる最低限の議論を尽くし、共通認識をしっかりと醸成すべきでしょう。また、憲法改正問題だけに熱中するのではなく、国民投票法の施行状況(関連予算の執行状況)に対し、怠らず注視する必要があります。法の執行運用に係る過誤拙劣が、一見して些細なものに思われても、立憲主義の政治体制に致命的なダメージを与えることも否定できないからです。
  憲法記念日は5月3日ですが、国民投票法が公布・施行された5月18日は、「第二憲法記念日」に値するであろう重要な一日です。この機会に、国民投票法の置かれている状況と真摯に向き合い、これからの議論を一歩前進させるため、本稿をしたためた次第です。

▼3つの宿題の放置による、不完全な施行状態

 国民投票法の施行から2年が経過したことを機に、「法が残した宿題を済ませ、難題を解決しよう」―と訴えるのが、本稿の主旨です。
 問題の発端は、国民投票法が、施行日から今日までずっと「不完全な施行状態」にあることです。不完全な施行状態は、法の附則に定める「3つの宿題」(検討措置事項)に関して、立法上の検討措置がなされないまま(検討未着手のまま)、法の施行に至っていることが原因です。
 3つの宿題とは、①20歳を基準とする選挙年齢、成年年齢等の年齢条項を18歳に引き下げるための見直し(附則3条)、②公務員の国民投票運動に係る国家公務員法、地方公務員法上の制限規定の見直し(附則11条)、③憲法改正を要する問題、憲法改正の対象となりうる問題に関する予備的国民投票制度の検討(附則12条)、を指します。
 宿題①と宿題②は、国民投票法の公布日(2007年5月18日)から施行日(2010年5月18日)までの3年間で検討措置(法制上の措置)を講ずることとされていたのに対し、宿題③は公布後速やかに検討し、必要な措置を講ずるとされ、期限の定めはないことに注意を要します。とくに、検討措置に「期限」がある宿題①と宿題②が未着手であることが、現在になって政治的解釈の余地を大きくし、問題を複雑にしているのです。

▼宿題① 選挙年齢、民法成年年齢等、年齢条項の見直し

 宿題①は、国民投票法が国民投票の投票権を「18歳以上」と定めたことに伴い、わが国の法令体系における年齢条項の見直しを行うとしたものです。選挙年齢、成年年齢(契約年齢、親権に服する年齢)、少年法の適用年齢、喫煙・飲酒可能年齢などは、明治期以降、伝統的に「20歳」が基準とされているものが多く、立法趣旨は個々に異なりますが、体系的なバランスをとる必要が出てきます(メディアでは、成人年齢の18歳引き下げといわれますが、わが国には大人と子どもを単純に線引きする法律は無いので、正確な表現ではありません)。
 国民投票法の立法担当者は、18歳を以て法的に「大人」と扱うのが世界標準であること、政治参加の権利(選挙、国民投票)と私法上の成年年齢(行為者単独で売買等の法律行為が可能)は一致して18歳以上とするのが大勢であること、憲法15条3項が保障する「成年者による普通選挙権」の意義は、私法上の成年を指すと考えたことから、法体系に齟齬が生じないよう(国民投票の投票年齢=公職選挙の選挙年齢=民法上の成年年齢という関係を想定)、国民投票法が施行されるまでの3年間に、公職選挙法をはじめ、見直しの対象となる法令(法律、政令、内閣府令、省令の中で、年齢条項を持つもの。全体で300を超えます。)を整理し、立法趣旨に添って対象範囲を確定したのちに、必要な法改正を行う(法制上の措置を行う)ことを求めています。
 なお、附則3条2項には、国民投票法の施行までに「18歳選挙権」等の法制上の措置が行われ、施行後に「18歳選挙権」を実現する公職選挙法の改正法などが施行されるまでの間は、国民投票の投票年齢も選挙年齢と同じく「20歳以上」とする旨の「読み替え規定」が置かれています。

▼宿題② 公務員の政治的行為の制限規定の見直し

 宿題②は、3つの宿題のなかで、最も難しい議論です。
 公務員は、その職務上の地位からして政治的に「中立」であることが求められ、それを根拠に一定の政治的目的に基づく政治的行為が規制されています。国民投票法が制定される以前から、国家公務員法(人事院規則)、地方公務員法、裁判官法、自衛隊法、警察法など公務員関係を規律する各法で、政治的行為(政治活動)を規制する条文が設けられているところです。
 他方、公務員といえども、主権者たる資格地位は当然に有している以上、憲法改正に対し意見を表明したり、国民投票に係る賛否の勧誘をすることまでは、少なくとも原則自由と考えるべきではないかと、立法担当者は考えました。国民投票法では、公務員がその地位を利用する態様(その地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力又は便益を利用するもの)を除いて、国民投票運動を行うことは自由とされています(法103条)。
 しかし、国民投票法で(公務員としての地位を利用しない)国民投票運動を原則自由にしたとしても、すでに述べたように、すでに存在する他の法律(国家公務員法、地方公務員法等)で規制の網に掛けたままでは、一貫性がありません。法的に、網掛けを解かなければなりません。
 この点、公務員が行う国民投票運動(憲法改正案に対し、賛成又は反対の投票をし、又はしないよう勧誘する行為)は様々な行為類型が考えられますが、それが他者に対し単純簡素に行われる場合は別にして、特定政党の支持のための署名活動、デモ・集会の企画等を伴う場合など、運動の主目的が別に置かれるケースも想定されるところです。国民投票運動を全面的に自由とすると、このような脱法行為を容認することにつながりかねません。
 そこで、立法担当者は、国民投票運動と称すれば何でも自由に行うことができる、という制度設計を許さず、公務員でも「許される国民投票運動」と「許されない国民投票運動」とを丁寧に仕分けする(許される行為については、それを規制する公務員法の適用を除外する)法制作業が必要だと考え、その作業を宿題として残した(具体的には、国民投票法の施行日までに、国民投票法の一部を改正する)のです。これが、宿題②です。
 現行法を前提とすると、国家公務員に関しては、国民投票運動を規制する規定は国家公務員法(人事院規則)には無いので、国民投票運動を自由に行うことができます。しかし、国民投票運動に伴って(あるいは付随して)署名収集、デモの企画など政治的な行為を行うことは違法と判断されます。
 また、地方公務員に関しては、地方公務員法36条において国民投票運動が明文で禁止されています(国家公務員とはアンバランスな関係にあります)。国民投票運動に伴って(あるいは付随して)署名収集、デモの企画など政治的な行為を行うことが違法と判断されることは国家公務員と同じです。

▼宿題③ 憲法改正問題に係る予備的国民投票の検討措置

 宿題③は、国家緊急事態に関する新たな章立て、道州制、首相公選制、憲法裁判所、一院制国会の導入など「憲法改正を要する問題」、女性・女系天皇制、通年国会制の導入など「憲法改正の対象となり得る問題」に関し、憲法改正の方向性について国民(有権者)に予め賛否を問う国民投票制度を、間接民主制との整合性を図りつつ検討しようとするものです。
 つまり、あるテーマでいきなり憲法改正を発議して、国民の承認のための国民投票に諮るのではなく、まずは事前のアンケート的な国民投票を行って、憲法改正に対する国民の意向を調査するという、憲法改正国民投票を応用した制度です。憲法96条は、国民投票の対象を憲法改正に限定していますが、上記の憲法改正問題はその対象を拡大し、「憲法96条の外延部分に位置する、国政上の重要案件」に該るものとして、任意に、諮問的に行うものであると考えられます。

▼宿題の放置によって生まれた、新たな難題

 3つの宿題は、2007年5月18日に国民投票法が公布されてから、5年間放置されています。その結果、現在なお、国民投票法は不完全な施行状態が続いています。当然、国民投票法は、3つの宿題が完遂できなかった場合を織り込んではいません。立法担当者はもちろん、私たち主権者もまったく想定できなかった事態であると認めざるを得ません。
 宿題の放置はそれにとどまらず、いまや新たな難題がもたらされています。ここで、憲法と国民投票法の関係が不安定なものになっていることがご理解いただけると思います。
 難題とは、
(1)3つの宿題が完遂していないのに、国会は憲法改正の発議をすることができるのか
(2)(1)で発議可能としても、国民投票において投票が可能となる年齢は何歳以上となるのか
(3)年齢条項の検討措置に関し、最低限必要な法制上の措置は、選挙年齢及び民法成年年齢の改正か、それとも選挙年齢の改正のみか、の3つです。

▼難題(1) 憲法改正の発議は可能なのか

 3つの宿題が完遂していない中、国会は憲法改正の発議をすることができるのかどうかにつき、これを可能とする説と、不可能とする説とに分かれています。
 まず、可能とする説は、次の難題(2)につき、投票年齢をいずれかに確定させることで、問題をクリアしようとします。しかし、宿題②が残っている以上、公務員による国民投票運動について(少なくとも、地方公務員が行う、署名活動等を伴わない単純な勧誘行為について)規制対象となりうることを容認するものであり、立法担当者の当時の考え方(立法趣旨)に反します。
 また、憲法改正発議は、衆参両議院がねじれていようとなかろうと、与党単独では不可能であり、少なくとも野党第一党の賛成が必要です。3つの宿題が完遂していない状態、つまり通常の法律改正で与野党合意が整わないなか、「総議員の3分の2以上」という幅広いコンセンサスを得るというのは、政治的リアリティが全くありません。
 したがって私は、憲法改正発議を不可能と考える立場を採ります。

▼難題(2) 投票年齢は確定できるのか

 難題(1)で、仮に憲法改正発議が可能と考えたとしても、宿題①が立ちはだかる以上、投票年齢をどう考えるかという問題が残ります。宿題①で述べたように、附則に「読み替え規定」が置かれているため、その解釈も絡んで、18歳とする説、20歳とする説、確定不可能とする説とに分かれます。
 まず、18歳とする説は、国民投票法の本則3条で、18歳投票権を認めたことを重視する立場です。附則を事実上無視し、本則を優先適用する考え方です。
 また、20歳とする説は、宿題の検討が未着手である場合にまで含めて、附則3条2項を広く適用しようとするものです。
 そもそも立法担当者が考えた附則3条2項の意義は、次のとおりです。国民投票法が施行される、2010年5月18日までの間に、18歳、19歳の未成年者が国政選挙に参加できること等となるよう、公職選挙法の改正(選挙年齢の引き下げ)等を行い、少なくとも改正公職選挙法の「公布」までは済ませておき、改正法の「施行」は2010年5月19日以降になることも想定に入れつつ(それで「法制上の措置」はなされたとみる)、「国民投票法の施行日(2010年5月18日)」から「改正公職選挙法の施行日」までの間(この間、選挙年齢は20歳以上)、国民投票の投票年齢も「20歳以上」とすること、にあります。このわずかな期間内であっても、同じ参政権に属する国民投票の投票年齢と公職選挙の選挙年齢が、法制上異なることにならないようにするのです。つまり、公職選挙法の改正法を「公布」することを最低条件と考えていたのが当時の立法担当者で、それを前提に設けられたのがこの附則3条2項です。20歳とする説は、附則3条2項の文言を広義に解し、公職選挙法の改正法が成立せず、公布されない状態までも含めて解釈するものです。
 しかし、この考え方は、宿題の未着手という偶然の後発的事情に基づいて立法趣旨を真逆に解するものであり、到底賛同することはできません。立法担当者の考え方とあまりにも離れすぎています。
 もっとも、18歳とする説も、宿題の検討未着手という事情をあまりにも軽視しているきらいがあり、公職選挙法、民法その他の法令に関する見直しを先送りする議論につながりかねず、妥当ではありません。
 したがって私は、投票年齢は確定することができないという立場を採ります。

▼難題(3) 年齢条項の見直し対象法令のうち、最低限の範囲はどこまでか

 難題(3)は、宿題①が直接もたらしたというより、長期間放置されてきたことによって、新たに露呈した問題です。わが国の法体系には、権利を付与し又は義務を課すための基準とされる、数多くの年齢条項が存在するわけですが、投票年齢を「18歳以上」としたことに伴い、法制上の措置の対象となる法令は、最低限どこまでが範囲に含まれるかが問題となります(形式的には年齢条項のすべてが該当することになりますが、問題となるのはあくまでも最低限の範囲です)。18歳、19歳の者が「国政選挙に参加することができること等となるよう」(附則3条1項)という文言の解釈も絡み、公職選挙法及び民法とする説、公職選挙法のみとする説に分かれます。
 公職選挙法及び民法とする説は、法文に最も忠実な立場です。附則3条1項でとくに、具体的な法令名として挙げられていることはもちろん、さらに、国民投票法が見直し対象とする「法令」の範囲に関して、「その他法令」ではなく、「その他の法令」としていることからして、検討対象となる「法令」の例示として公職選挙法、民法を挙げているのであり、例示する二つの法律を当然含めるという立法担当者の意図が明らかと解されるからです。また、立法担当者は、戦後、衆議院議員選挙法が廃止されて公職選挙法が制定されたさい、民法成年年齢との判断能力の同一性に着目して、20歳以上として両者を一致させたという経緯を重視し、今日まで踏襲しています。私は、この説に賛成です。
 公職選挙法のみとする説は、附則3条1項にある「国政選挙に参加することができること等となるよう」、という文言に着目し、参政権以外の対象拡大に何ら言及していないことを根拠とします。その背景には、個人に要求される判断能力といえども、公法上のそれと、私法上のそれとは違うという価値判断があります。
 なお、いずれの説に立っても、公職選挙法の改正は必須です。それとの関連で、18歳に参政権を付与していることと、選挙犯罪に対する刑事上の制裁のバランスをとるためには、少年法の改正(18歳引き下げ)も同時に検討されなければならないとか、地方自治法、裁判員法との連動の問題であるとか、検討すべき点は広がりを見せていきます。

▼結語

 国民投票法をめぐる、「3つの宿題」の放置と、新たに立ちはだかる「3つの難題」について、愚見を連ねてきました。
 宿題、難題は、放置したままで自然と解決が進むものではありませんし、憲法も沈黙したままです。決めない政治、決められない政治による弊害、負の遺産であることに間違いなく、法の施行後何年間もこうした状態が続き、宿題、難題をクリアするための政治的叡知が結集できないことに、私はある種の恐怖感さえ覚えます。 さらに言えば、宿題、難題に見向きもせず、憲法改正の国会発議要件を緩和するとか、承認の国民投票そのものを廃止してしまうとか、何の憚りもなくこのような主張が繰り広げられることに、強い違和感を抱いているところです。
 国会は直ちに、3つの宿題を成し遂げること―これに尽きます。国民投票法の施行状態が完全に整い、憲法との関係が安定するためにも、できるだけ早期の立法対応が求められます。
 国会が「立憲主義の番人」になるのはいつなのか、自問自答の毎日が続きそうです。


*国民投票法・参考条文*

3条[投票年齢]
 日本国民で満18年以上の者は、国民投票の投票権を有する。
103条[公務員等の地位利用による国民投票運動の禁止]
1.国若しくは地方公共団体の公務員若しくは特定独立行政法人(独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第2項に規定する特定独立行政法人をいう。第111条について同じ。)若しくは特定地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)第2条第2項に規定する特定地方独立行政法人をいう。第111条について同じ。)の役員若しくは職員又は公職選挙法第136条の2第1項第2号に規定する公庫の役職員は、その地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力又は便益を利用して、国民投票運動をすることができない。
2.(略)
附則3条[年齢条項の見直しに関する法制上の措置]
1.国は、この法律が施行されるまでの間に、年齢満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう、選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法(明治29年法律第89号)その他の法令について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。
2.前項の法制上の措置が講ぜられ、年齢満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加すること等ができるまでの間、第3条、第22条第1項、第35条及び第36条第1項の規定の適用については、これらの規定中「満18年以上」とあるのは、「満20年以上」とする。
附則11条[公務員の政治的行為の制限規定に関する法制上の措置]
 国は、この法律が施行されるまでの間に、公務員が国民投票に際して行う憲法改正に関する賛否の勧誘その他意見の表明が制限されることとならないよう、公務員の政治的行為の制限について定める国家公務員法(昭和22年法律第120号)、地方公務員法(昭和25年法律第261号)その他の法令について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。
附則12条[憲法改正問題に係る予備的国民投票に関する検討措置]
国は、この規定の施行後速やかに、憲法改正を要する問題及び憲法改正の対象となり得る問題についての国民投票制度に関し、その意義及び必要性の有無について、日本国憲法の採用する間接民主制との整合性の確保その他の観点から検討を加え、必要な措置を講ずるものとする。

筆者プロフィール
南部 義典(なんぶ よしのり)
http://twitter.com/nambu2116
http://www.facebook.com/nambu.yoshinori

 
 
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