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国民投票の諸形式及びスイスにおける制度・ルール
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   更新:2013/10/15
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国民投票の諸形式及びスイスにおける制度・ルールについて簡単に解説します。
国民投票の諸形式及びスイスにおける制度・ルール
今井 一(ジャーナリスト)


▼国民投票の基本形
[投票対象となる案件によって分類する]
 憲法改正の是非を問う国民投票
 法律の制定・改廃の是非を問う国民投票
 条約批准の是非を問う国民投票
 政策選択のための国民投票

[発議者によって分類する]
 国民発議による国民投票
 大統領発議による国民投票
 政府・内閣発議による国民投票
 議会発議による国民投票
 義務的国民投票(例えば憲法改正、条約批准などにおいて必ず実施されるもの)

[法的拘束力の有無によって分類する]
 拘束型国民投票
 諮問型国民投票

▼国民投票の諸形式

国民発議(イニシアティブ)
 憲法や法律の制定・改廃などについて一定数の連署による請求を条件に国民に発議権を認め、その発議の採否を決すべく行われる国民投票。

国民表決(レファレンダム)
 議会で採択された憲法や法律の制定改廃案、国際条約の批准などについて、効力を持たせるか否かを決すべく行われる国民投票。

国民拒否(イニシアティブ)
 法律などが効力を発した後、一定期間内に一定数の連署による「失効を求める」国民請求が行われたときに、その是非を問うべく行われる国民投票。

国民意思表示=諮問型国民投票(レファレンダム)
 議会や政府、あるいは大統領が、憲法や法律の制定改廃、国際条約の批准などに関し、その最終決定の前に国民の意思を確認し決定の参考とするために行う法的拘束力のない国民投票。

スイスにおける国民投票

 スイスの場合は他の国々のように、国民投票にかけるべきテーマ・案件が生じて、その後に実施日を決めるというのではなく、先に実施日が確定していて、その投票日に合わせてテーマを決める。基本的に一年に四度実施し、すでに二〇二五年までの実施日が公表されている。二〇〇四年二月八日、スイスはこの年最初の国民投票を実施した。私は一〇日間にわたって首都ベルンを中心に現地に留まり、国民投票を多角的に取材した。

二月八日の国民投票のテーマ

(1)自動車道建設[憲法改正を伴う]
 政府と議会は「安全で設備の整った自動車道建設」のために憲法改正を求める国民発議に対して対案を提出し、これを国民投票にかけた。
[政府対案の趣旨など]
 広域交通政策として、チューリッヒ、ベルン、ローザンヌ、ジュネーヴなどの主要都市を中心に、鉄道・自動車道・都市部の公共交通網を総合的に整備し、優先順位の高い道路から建設していく構想を明示。道路建設業界などがこの対案に「賛成」、環境グループが「反対」のキャンペーンを張った。

(2)借家に関する賃借り法修正
 前年に国民投票で否決されたスイス借家人連盟の国民発議に対する間接的対案として、政府と議会が決議した修正案を国民投票にかけた。
[政府修正案の趣旨など]
 現在の関連法は一九九〇年に制定されたものであるが、その後、住宅ローンの金利が大きく変動しているので、政府が現状に即した金利の基準を随時定める。

(3)性的・暴力的凶悪犯に終身刑を科す
 近年多発している殺人絡みの性犯罪から女性や子供を守らなければならないという危機意識をベースに、犯罪被害者とその近親者から出された国民発議だ。
[発議者の主張など]
 刑務所の監視官も認めているように、こうした罪を重ねて犯す者は仮出獄の機会を得やすい模 範囚である事が多い。出獄すると必ず犯行に及ぶ病的な人間は社会に存在するのだから、こうした人々には終身刑を科すべきだというのが発議者の主張である。
 政府は、人権を侵害し法の混乱を招く恐れのあるこうした発議には賛成しないよう有権者に求める一方、仮出獄中の監視措置が十分でないために国民の不安は解消されないという点においては不備を認め、現行法をより厳しくする見直し案を明示した。

 スイスの国民投票がどんなふうに実施されてたのかという具体的な話をする前に、その制度に関して基本的な説明をしておきたい。

〈さまざまな国民投票〉

国民発議
憲法や法律の制定改廃などについて、有権者一〇万人(有権者の約二%)以上の連署を条件に国民に発議権を認め、その発議の採否を決すべく行なわれる国民投票。

国民拒否
連邦法律、連邦決議の成立に際して、有権者五万人以上の連署による請求か、八州の請求があった場合、それを採択すべきか否認すべきかを国民投票に問わねばならない。

国民表決―義務的国民投票―
憲法改正、超国家的共同体、集団的安全保障機構への加盟、国際条約批准に関わる法案に関しては必ず国民投票にかけられ、国民の承認を得なければ成立しない。

国民表決―任意的国民投票―
連邦法律、連邦決議の成立に際して、それを採択すべきか否認すべきかを、政府に実施義務がなくとも国民投票にかける。

 スイスに限らず、国民投票にはこのように幾つかの種類があるのだが、二月八日に実施された投票のテーマで言うと、(1)と(2)は〈国民表決=レファレンダム〉となり、(3)は〈国民発議=イニシアティブ〉として実施された。

ルールはこうなっている

 国民投票のルールはいったいどうなっているのか。国民投票の基本的なことは連邦憲法に記してあるし、「政治的権利に関する連邦法」の中にも盛り込まれている。だが、条文を読むだけではなく、専門家の話を聞かないとわからないことがいくつもある。私は滞在中、左記の方々に直接会って話を伺った。
 スイス政府・内閣法制局「政治的権利」部長 ハンス・ウルス・ヴィリー氏
 政治経済有力紙『NZZ』紙日曜版・国内政治部長 エーリッヒ・アシュヴァンデン氏
 スイス国営放送・国内政治編成局長 ロルフ・カーメンツィントゥ氏

各氏とも、私が浴びせた数々の質問に対して丁寧に答えてくださった。三氏の話を照らし合わせ、要点をまとめるとこういうことになる。

[賛否を訴えるキャンペーン活動について]

◇賛否両派がチラシ配布、ポスター貼りなどを行なうことは原則として自由。また、大小に関わらず集会や勉強会を開催できるし、戸別訪問も許されている。

◇公務員は、公務員として活動したり勤務中に活動するのは禁じられているが、勤務時間外に個人として活動するのは認められている。

◇新聞への意見広告は、広告の中身について公平性が求められるが法的規制は無い。新聞社は自らの判断で、そうした広告を載せたり拒んだりできる。資金力のある、なしで宣伝力に著しい差が出るのは不公平だという意見もあるが、スイスでは「自由な活動」を優先。

◇テレビやラジオなど放送媒体で政治的な宣伝を行うことは一切禁止(宣伝する者がスイス人であろうと外国人であろうと同じこと)。

◇インターネットに関する特別の規制はない。嘘の情報を流してはいけないという一般的な法律が適用されるだけ。もし事実と異なる情報を流されたら、裁判に訴えることができるが、発信者の特定が困難なインターネットの規制は難しく法的規制は整っていない。

[マスメディアのあり方について]

◇テレビやラジオの公平性が保たれる討論番組などにおいて出演者は自らの意見を自由に述べていいが、ニュース番組などで社の姿勢や、キャスター個人の主張を一方的に押し出すことは許されていない。

◇新聞に関しては放送と違い前記のような制限はない。社としても記者個人としても政治的見解を主張できる。新聞社は「公平を期すため」と称して、自らの主張をあいまいにしてはいけない。各紙がはっきりと主張を打ち出すことによって読者は問題の本質をつかみ、確信をもって賛否の判断を下すことができるからだ。

◇基本的にメディアは政府や議会から完全に独立した存在で、新聞も国営・民間の放送媒体も(現行法の遵守は求められるが)政府と議会の干渉は一切受けない。

[投票方式について]

◇今回のように投票対象となるテーマが複数になる場合、当然のことながら投票用紙はテーマ毎に賛否を記入する方式をとっている。投票所で投票する場合は、テーマ毎に別々に投票箱が据えてある。郵便投票の場合、所定の封筒にまとめて返送することになるが、投票用紙の賛否の記入欄は別個に独立して設けてある。

[投票権者について]

◇国民投票の有権者は一八歳以上のスイス国民に限られる(在住外国人に投票権はない)。そして、国民投票にかけられた「案」は、たとえ投票率が低くても、投票者の過半数の賛成と各州の過半数の賛成が得られれば可決される。ここ二〇年間に行なわれた主なテーマは上の年表のとおり。投票率はテーマによってまちまちだが、平均すると四五%前後だ。

「現行の国民投票制度を継続したいか?それとも日本やイギリスのように重要事案の決定を内閣・議会に託す制度に変えたいか?」――スイス滞在中、私は現地の取材スタッフと共に有権者を対象とした意識調査を行なった(男女比 や世代のバランスを考慮した九二人に、対面により回答を得る)。
 結果八七人(九五%)の人が 「現行制度の継続」と回答。そう望む理由として、「公共工事に刑法改正、軍隊廃止、国連加盟と、様々な事案について勉強するのは大変だけれど、やっぱり大事なことは自分たちが直接決めたい」と語る人が多かった。「大事なことは自分たちが直接決めたい」――その思いは私たち日本人とて同じで、今や八割の人が国民投票の活用に賛成している。にもかかわらず、一度もやったことがないという不幸。なぜやらないのか。それは明白。制度がないからできないのだ。
 こうした制度不備を放置せず、八一ページで提案し、スイスおける事例として紹介した「国民発議」や「国民表決」、「国民拒否」といった制度を日本にも導入しないと、本当の意味で市民が政治参加や行政監視を為すことはできない。つまり、こうした制度の確立なしには「市民政治の確立」もあり得ず、実質的な「議会主権」が続くことになるだろう

[備考]国民発議の手続き。その流れ。

  1. 国民発議委員会が定められた数(一〇万人以上)の署名を定められた期間内(一八ヶ月以内)に集める。
  2. 草案を政府に提出する。
  3. 連邦政府と上下両院の議会は憲法と法律に矛盾していないか審議する。
  4. 草案が法に触れないものであっても、例えば財政的な裏付けが困難だというような理由で非 現実的な提案だと政府が判断すば、対案を出す場合もある。いずれにせよ政府も議会も発議に対する是非を表明する。
  5. 国民投票の期日が三~四週間前になると、国民には投票用紙と内容を説明した小冊子が地元自治体から郵送されてくる。この小冊子の中でも政府見解は明記してある。又各政党、団体、報道機関も独自の見解をメディアを通して発表する。
  6. 規定の投票所での国民投票の実施日が郵送投票の必着日となる。自治体で定めた投票所ないしは選挙管理委員会に投票用紙が郵送される。優先郵便は一日で郵便が届けられる。

※なお、わが国で論じられようとしている『予備的国民投票』については「[寄稿] 国民投票法施行2年 ~法が残した宿題を済ませ、難題を解決しよう~」を御参照下さい。

筆者プロフィール
今井 一(ジャーナリスト)
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