2-1.前回のあらすじ
前回は、18歳成人改革に向けた5つの議論を紹介し、中でも、憲法改正の手続きを定める国民投票法の制定が直接的なきっかけとなったことを説明しました。また、成人年齢は自ら判断し、行為する能力を合理的、かつ平等に決するために設けられるところ、引き下げ後の年齢までに必要な能力を体得させるための教育制度を充実させる必要があることを指摘しました。
今回のテーマは、「成人」と「成年」。これらは同じ意味に使われることが多いのですが、より掘り下げて考えてみたいと思います。(※7)
2-2.一般的な使われ方
「成人」と「成年」の国語的な意味を探るため、法律学小事典ではなく、広辞苑を開いてみます。
|
成人(せいじん)
(1)幼い者が成長すること。成年に達すること。また、その人。成年以上の人。おとな。
(2)心身の発達を終え、一人前となった者。
成年(せいねん)
(法)心身が完全な発達をなし、完全な行為能力を有するとみなされる年齢。
|
と説明されています。成年の(法)とは、これが法学用語であることを示しています。
ここで、成人とは成年概念を含むものであること、「おとな」「一人前」という事実上の概念を含んだ幅広い意味を持つことがお分かりいただけるでしょう。
広辞苑には、未成人(みせいじん)という用語はありませんし、日常、ほとんどそのような使われ方はしません。
反対に、未成年(みせいねん)とは、「まだ成年に達しないこと。また、その人」と説明されています。一般的には、成年に達していないという意味だけではなく、成人に達していないというニュアンスを込めて、広く、未成年(者)という言い方がされているように思います。
2-3.国内法における「成人」と「成年」
国内法では、これらの用語はどう使われているでしょうか。
「成人」を法律名に含むものはありませんが、条文中に含むものは、5つあります(2008/9/1現在)。
|
- 児童福祉法 (昭和22年12月12日法律第164号)
- 国民の祝日に関する法律(祝日法) (昭和23年7月20日法律第178号)
- 少年法 (昭和23年7月15日法律第168号)
- 社会教育法 (昭和24年6月10日法律第207号)
- 知的障害者福祉法 (昭和35年3月31日法律第37号)
|
このうち3.少年法が唯一、成人についての定義を加えています。同法第2条は、成人とは満20歳以上の者であるとしています。これに従い、刑事法の分野では成人の刑事事件とは言いますが、成年の刑事事件という言い方はしません。
2.祝日法は、成人の日を祝日と定めていますが、成人とは「おとなになったこと」と、同語反復的な意味付けを行うだけで、何歳を以て成人となるかという明示はありません。この点は、祝日法の立法経緯を含め、第7回 成人の日と成人式で触れます。
5.知的障害者福祉法を最後に、成人という用語を含んだ法律は50年近く、新たに制定されていないということが分かります。
他方、「成年」は、法分野で広く使われています。
未成年者喫煙禁止法(明治33年3月7日法律第33号)、未成年者飲酒禁止法(大正11年3月30日法律第20号)は、法律のタイトルに成年(未成年)という用語を含んでいます。これら2つの法律は、第6回 酒、タバコ、ギャンブルをめぐってで扱います。
条文中、成年(未成年)という用語を含む法律は215本に及びます(2008/9/1現在)。そのうち205本が、戦後に制定されています。
前回触れましたが、憲法も15条3項で「公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する」と定め、成年という概念を用いています。
民法(明治29年法律第89号)はずばり、成年の定義をしています。4条は「年齢20歳をもって、成年とする」と、定めています。反対解釈により、未成年者とは、20歳に満たない者ということになります。
民法4条は成年年齢を定めているのであって、成人年齢を定めているわけではないことに注意を要します。「おとな」、「一人前」とは何かを定義することは難しく、不確定な要素がさまざま入り込むため、成人年齢を法律で定めることは困難が伴います(※8)。
憲法、民法には成人という語は登場しません。

2-4.議論されているのは、18歳成人改革?
20歳から18歳に引き下げられようと議論が進められているのは、成年年齢であって成人年齢ではありません。
ここまで話を進めると、「18歳成人改革」という本連載のタイトル自体、誤りを含んでいるのではないかという疑問が出てくることでしょう。
厳密にはその通りです。一般的に制度化(定義付け)されていない成人年齢を、改革することはできません(あえて、少年法に限定すれば、成人年齢の引下げという表現が妥当するでしょう)。
しかし、成人に比べ成年は、なじみのある言葉でなく、理解されにくい用語です。正確さを追求するあまり、成年という概念、用語を前面に出してしまうと、市民に伝わりづらくなります。市民的理解では、満20歳で成人、20歳未満は未成年なのです。
ニュースなどでも、成年年齢とは言わないで、あえて成人年齢という表現を採っています(両者が別概念であることが認識されていない場合もあるようですが)。
そこで、私の著書でも、本連載でも、制度を漠然と指す場合には「成人年齢」と表現し、民法4条など特定の法律条文について述べる場合には、条文の意義に従い、意識して「成年年齢」を使っています。
論点の先取りにならないよう、また、論点の背景を分かりやすく説明するために、「成年年齢」とすべきところをあえて「成人年齢」のままにしている箇所もあります。18歳成人改革という本連載のタイトルには、18歳成年改革が当然含まれていると理解していただければ幸いです。
前回ではそれほど意識しませんでしたが、「成人」と「成年」とは、少なくとも法学、立法政策のレベルでは区別すべき概念です。
2-5.法律用語の相対性
ここまでは、「成人」と「成年」の意義を確認しました。通常の日本語の理解レベルでは同じように聞こえるものの、実は内容は異なっていて、法律も両者を区別して用いています。ただ、表現の分かりやすさで、成人年齢という言い方が一般的になっているということに過ぎません。
論点をさらに進め、同じ(ような)用語が、複数の法律において異なった意味で使用されている例を紹介します。
まず、「年少者」と「少年」を、きちんと区別して説明できるでしょうか?
「年少者」とは、労働基準法上、満18歳未満の者をいい、「少年」とは、少年法上、20歳に満たない者をいいます。「年少者」と「少年」は同じじゃないのか?と思われることでしょう。
また、「児童」という用語は、法律により意義が異なります。
労働基準法上の「児童」は、満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまでの者(要するに、中学校を卒業した者)をいい、児童福祉法上のそれは、満18歳未満の者をいいます。さらに、児童福祉法は、児童の中に少年が含まれている(小学校就学の始期から、満18歳に達するまで)という考え方を採っています。当然これは、少年法上の「少年」とも異なります。
これまでは、法律の制定目的(あるいは法体系、法分野)は相対的なものであり、同一用語でも法律によって意味が異なることは当然のことと考えられてきました。他にもこのようなケースはあります。
しかし、18歳成人改革を進めていく上では、成人、成年の字句の問題に限らず、上記のような特定年齢を定めた条項をどのように整序するかが、法制上の大論点です。成人(成年)年齢の引下げは、「児童」、「少年」、さらには「年少者」概念にも影響するからです。
注
| (※7) |
成人年齢を英語ではage of majorityといいます。日常生活上、ほとんどのことを独りでできるというニュアンスが込められています。
|
| (※8) |
近代化(民法制定)以前の日本では、一定の身体能力を持った者が成人とされた習わしがありました。このような習わしの下では、成人となる時期、社会における扱いに個人差が生じてしまいます。
|
|