大人×子ども
  18歳成人改革の論点
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   更新:2008/12/15
 大人×子ども 18歳成人改革の論点
南部義典
18歳はもう大人?まだ子ども?――成人年齢を引き下げるべきかどうか、政府の検討が本格的に始まりました。早ければ、2009年秋の臨時国会に関連法案が提出される予定です。
18歳を法的に「一人前」と扱うことで、社会にどのような影響が現れるのか、どんな未来が切り拓かれていくのか、全12回にわたって多角的に検証していきます。
第1回  18歳成人改革の始まり(2008/08/15UP)
第2回  「成人」と「成年」(2008/09/05UP)
第3回  308本の法令リスト(2008/09/25UP)
第4回  法制審議会の動向 -その1-(2008/12/15UP)
第5回  「中間報告」をどう読む?(2008/12/30UP)
第6回  18歳国民年金加入論(2008/12/30UP)
第7回  酒、タバコ、ギャンブルをめぐって(2009/01/18UP)
第8回  成人の日と成人式(2009/01/18UP)
第9回  刑罰か教育か?少年法改正の是非(2009/03/15UP)
第10回  児童福祉の観点から
第11回  法制審議会の動向 -その2-
第12回  世論の反応、改革の行方


第4回 法制審議会の動向 -その1-

4-1.前回のあらすじ

 第3回「308本の法令リスト」では、国民投票法附則3条を受けて、見直し対象となる「年齢条項」を含む法令(308本)を紹介しました。公選法、民法をはじめとして、実に様々な法令がありますが、その多くは、成年(者)、未成年(者)を基準として、権利を与えたりする民法従属型です。民法(4条「年齢20歳をもって、成年とする」)が改正され、成年、未成年の意義が変われば、当該法令を別途改正する必要はありません。
  今回は、年齢条項の中枢ともいえる民法改正の動向について、検証していきます。

4-2.法制審議会民法成年年齢部会の設置

 本則で投票権年齢を18歳と定める国民投票法が施行され(2007年5月18日)、国は3年後までに、公選法、民法その他の法令について必要な見直しを行うこととなりました。
  見直しの動きは民法から始まりました。2008年2月13日、鳩山邦夫法相(当時)は、若年者の精神的成熟度及び若年者の保護のあり方の観点から、民法の定める成年年齢を引き下げるべき否かについて御意見を承りたいと、法制審議会に諮問。審議会に、民法成年年齢部会が発足しました。

4-3.成年年齢の引下げに係る論点

 民法は、私人間の関係を規律する法律です。年齢条項として、成年、未成年を用いている条文は、約50に及びます(4条等)。簡単に整理すると、下図のとおりです。

表6.民法の年齢条項のスキーム
区分 年齢 備考
(1)契約年齢 20歳成年年齢は、一般にこれを指す。
(1)養親年齢 20歳(1)と(2)は必ずしも一致している必要はない。
(3)婚姻年齢 男18歳、女16歳成年擬制(婚姻すれば、成年者とみなされる)あり。

 まず、(1)契約年齢です。第1回で述べましたが、判断能力のある大人ならば、他者に危害を与えない限り、自己の身体又は財産に対して、自己決定をすることができるというのが、近代以降の一般的な考え方です。この原則が社会的秩序として完全に機能すれば、民法という法律が無くても、市民社会はうまく機能し、やっていけるはずなのですが、現実には判断能力の有無・程度は個々に差があること、市民はすべて法の下に平等であることから、民法で「年齢」という画一的条件を付して、一定の年齢以下の行為の効果を制限しているのです。

 具体的に見てみましょう。4条は、「年齢20歳をもって、成年とする」と規定する一方、5条は「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない」(1項本文)、「前項(1項)の規定に反する法律行為は、取り消すことができる」(2項)と規定しています。無知な未成年者がその意思に反して財産を逸失するなど不利益を被らないよう、単独では有効な法律行為をなしえないと、その能力(民法の世界ではとくに「行為能力」と呼んでいます)を制限しているのです。もっとも、当然に法律行為が無効とされるのではなく、取り消すことができるとして、取引の安全に配慮した定め方になっています(※11)。

 親権は財産管理権と身上監護権からなります。818条1項は、「成年に達しない子は、父母の親権に服する」と定めているので、4条と連動します。(1)契約年齢は、親権に服する者の範囲と一致します。
 成年年齢を18歳に引き下げる場合、親の同意なく、単独で高価な買い物をしたり、賃貸借、ローン契約などをしてよいかという問題が生じます。

 次に、(2)養親年齢です。792条は、「成年に達した者は、養子をすることができる」と定めています。こちらも4条と連動しています。養子が未成年のときは、養親の親権に服します(818条2項)。男女ともに、18歳で養親となってよいのかどうかという問題が生じます。

 そして、(3)婚姻年齢です。731条は、「男は、18歳に、女は、16歳にならなければ、婚姻をすることができない」、737条1項は「未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない」と定めています。成年を要件としていませんので、4条と連動しません。
 しかし、もし成年年齢が18歳に引き下げられた場合、18歳の男性と女性では、同意を要するか否かで違いで出てくるので、この点の妥当性が問題となります。また、婚姻した未成年者の「成年擬制」(753条)との関係もあります(※12)。

 民法典に限定すれば、主な論点は上の3つです。もちろん、第2回、第3回で確認したように、民法の成年年齢は、私法に限らず、公法分野においても、多くの法律がこの概念を援用しています(※13)。 

4-4.民法成年年齢部会の組織、議論

 3月11日に第1回民法成年年齢部会が開催され、以後、11回の会合と、3回の意見交換会が開催されました。若年者をめぐる課題について、各界からのヒアリングを中心に行ってきました。
  部会委員名簿、配布資料、議事録はすべて、法務省ウェブサイト(http://www.moj.go.jp/)で公開されています。

表7.民法成年年齢部会の開催状況(2008/11/25現在)
日付
内容・議題
ヒアリング出席者
法相
1
 2008/3/11自由討議 
鳩山邦夫
2
 2008/4/15ヒアリング
(教育編)
藤田英典(国際基督教大学教養学部教授)
本多吉則(東京都立芝商業高等学校長)
鳩山邦夫
3
 2008/5/13ヒアリング
(消費者編)
島野康(国民生活センター理事)
鎌田健司(弁護士)
鳩山邦夫
 
 2008/5/30意見交換会(東京都立芝工業高校)  
 
 2008/6/2意見交換会(千葉県立八千代高校)  
4
 2008/6/3ヒアリング
(雇用・労働編)
小杉礼子(独立行政法人労働政策研究・研修機構総括研究員)
藤井孝司(トヨタ自動車株式会社法務部主査)
種岡成一(東京電力労働組合中央執行委員長)
鳩山邦夫
5
 2008/7/1ヒアリング
(その他1)
菊池武剋(東北大学大学院教育学研究科教授)
宮本みち子(放送大学教授) ※部会委員
斎藤環(医師)
鳩山邦夫
 
 2008/7/3意見交換会(早稲田大学)  
6
 2008/7/22ヒアリング
(その他2)
正高信男(京都大学霊長類研究所教授)
水谷修(花園大学客員教授)
仲真紀子(北海道大学大学院文学研究科教授) ※部会委員
鳩山邦夫
7
 2008/9/9ヒアリング
(親権編)
遠山信一郎(弁護士)
加賀美尤洋(全国児童養護施設協議会会長)
久保野恵美子(東北大学大学院法学研究科准教授)
保岡興治
8
 2008/9/30世論調査報告・討議 
森 英介
9
 2008/10/21討議 
森 英介
10
 2008/11/18討議(中間報告書第1次案) 
森 英介

4-5.議論の達成点

 第10回会合(2008/11/18)では、民法の成年年齢の引き下げについての中間報告書(第1次案)が討議されました。
 すでに報道されているとおりですが、部会としては、無条件に引き下げに賛成するという結論には至っていません。引き下げる場合でも、未成年者が不利益にならないよう、一定の条件整備(※14)が必要であると指摘しています。議事録を読んでいただければ、引き下げに消極的な意見が各界のヒアリング出席者から多く述べられています。

 (1)契約年齢ですが、もし引き下げるとなった場合には、A説(18歳説)、B説(一斉成年説:18歳に達した直後の3月の一定の日)、C説(19歳)と、3つの意見に分かれました。
 (2)養親年齢は、甲案(成年年齢とともに引き下げる)、乙案(現状のまま)、丙案(現状より引き上げる)のうち、乙案と丙案で意見が分かれました。
 (3)婚姻年齢は、X案(現状のまま)、Y案(男女とも18歳)、Z案(男女とも16歳)のうち、Y案(男女とも18歳)で意見がまとまりました。

 なお、旧民法の自治産(※15)のような段階的な能力付与の制度を設けるかどうかについては、さらに検討が進められることになりました。また、公選法の選挙権年齢とは必ずしも一致する必要はない点でも意見は一致しました。

4-6.今後の展開

 部会は年内を目途に、中間報告書を正式にとりまとめ、パブリックコメントを実施します。2009年以降も精力的に議論を進め、民法改正の要綱案をとりまとめる予定です。他省庁の議論を喚起しつつ、最終目標は、2009年の臨時国会又は2010年の法案提出です。

 注
(※11) 取消権は、未成年者本人又は親権者が行使します。
(※12) 成年年齢を18歳とし、婚姻年齢を男女ともに18歳とすれば、成年とみなす必要はありません。
(※13) 公法の分野で、成年の意義を具体的に定めたものはありません。
(※14) 消費者教育、キャリア教育、市民教育の充実などが挙げられます。
(※15) 旧民法では、15歳に達すれば、親の許可を得て、準禁治産者(現行民法の被保佐人)並みの行為能力を得ることができました。


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筆者プロフィール
南部 義典(なんぶ よしのり)
1971年岐阜県生まれ。1995年京都大学文学部哲学科卒業。同年9月、国会議員政策担当秘書資格試験に合格。
山花郁夫・衆議院憲法調査会幹事(当時)の政策秘書として、立法政策に携わる(〜現在)。2007年4月より、大宮法科大学院大学に在学中(〜現在)。
国民投票法案に関し、民主党案の論点整理をまとめ(2005年4月)、衆議院憲法調査特別委員会・第2回中央公聴会(2007年4月)、参議院憲法調査特別委員会・さいたま地方公聴会(同年5月)の二度にわたり、公述人として発言した。

当サイト内連載・寄稿
国民投票法本則施行までの「3つの宿題」の早期審議を求める声明(2008年7月21日)
立憲主義の発展に資する国民的議論を(2007年10月28日)
イヤでもわかる!国民投票法案(2006年12月〜2007年3月)

著書
Q&A解説・憲法改正国民投票法』(2007年7月、現代人文社) (日本初の同法解説書)

外部リンク
南部義典の国民投票つれづれBlog (筆者のブログ)

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