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 国民投票・住民投票の政治的位相
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   更新:2013/05/30
 連載 国民投票・住民投票の政治的位相
南部義典



第5回 "国民投票法改正"維新案を検証する

▼"国民投票法改正"維新案

 2013年5月16日、日本維新の会は、「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案」(以下、「維新案」と略)を衆議院に提出しました(衆議院議員馬場伸幸君外3名提出・第183国会衆法第14号)。みんなの党との共同提出が模索されていましたが、合意に至らず、単独の提出となったようです。

 野党法案であり、この通常国会で成立する見通しは立っていません。成立の可能性がないので、メディアは深掘りして報じないわけですが、参議院選挙の後、与党が同内容の法案を提出する可能性が高いこともあり(最短で、秋の臨時国会になるでしょう)、いまの段階で維新案の内容を検証し、議論の方向性を見据えておく必要があると考えます。

各議院の憲法審査会において国民投票法制に関する本質的な議論を再興させるため、この通常国会において、趣旨説明と質疑は行っておくべきと考えます。

 維新案の要綱、本文は、[資料]をご覧ください。
[資料]日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案(要綱・本文)

▼維新案提出の背景

 維新案は、国民投票法附則第3条(年齢条項の見直しに係る法制上の措置)及び第11条(公務員の政治的行為の制限に関する検討措置)が定める検討事項、いわゆる3つの宿題のうちの「2つ」に関するものです。

思えば、これら2つの宿題は、国民投票法の公布日(2007年5月18日)に法制上の検討を行う義務が発生し(附則第1条)、国民投票法の全面施行日(2010年5月18日)までの3年間のうちに、適切な措置が講ぜられると、6年前、立法時には想定されていました。期限付きの宿題でした。

しかし、現在なお、これら2つの宿題は着手にすら至っていません。国民投票法の全面施行から3年が過ぎましたが、いまだに不完全な状態であり、法的に説明がつかない状態です。立法不作為というより、もはや立法事故と評すべきものです。

 政治的にはありえない話ですが、附則第3条、第11条が放置されている状態で、憲法改正の発議が行われた場合を仮定します。憲法第96条の規定に従い、国民の承認を求めるための投票に付されるわけですが、この場合、(1)国民投票年齢が確定しない、(2)公務員による国民投票運動及び憲法改正に関する意見表明が、各種公務員法が定める政治的行為の制限規定の適用対象となるという、法的障碍が生じます。

なぜ、(1)(2)のような法的障碍がなぜ生じるのか、何が障碍となり、どのような不都合が起きるのか、本来であれば丁寧な説明が必要ですが、本稿では結論だけ提示することとし、詳しくは別稿に委ねます。

(1)(2)の問題は維新の会だけが認識し、問題提起しているということに尽きません。国民すべてが直面している、これ以上の猶予が許されない、国民投票法制上の重要な問題です。維新案が提出された背景には、党利党略を論ずる以前に、こうした国民投票法の不完全施行状態を是正し、憲法改正発議のさいに不可避となる法的障碍を取り除かなければならない事情があるのです。

参考条文)国民投票法附則第3条・第11条
(法制上の措置)
附則第3条 国は、この法律が施行されるまでの間に、年齢満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう、選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法(明治29年法律第89号)その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。
2 前項の法制上の措置が講ぜられ、年齢満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加することができること等ができるまでの間、第3条、第22条第1項、第35条及び第36条第1項の規定の適用については、これらの規定中「満18年以上」とあるのは、「満20年以上」とする。
(公務員の政治的行為の制限に関する検討)
附則第11条 国は、この法律が施行されるまでの間に、公務員が国民投票に際して行う憲法改正に関する賛否の勧誘その他の意見の表明が制限されることとならないよう、公務員の政治的行為の制限について定める国家公務員法(昭和22年法律第120号)、地方公務員法(昭和25年法律第261号)その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。

▼維新案の提案理由

 維新案が提案された立法上の理由(提案理由)は次のとおりです(資料p5)。
 (1)国民投票年齢の18歳先行引き下げ、(2)公務員法の政治的行為の制限規定の一部適用除外、の二つが論点となります。

 日本国憲法の改正手続に関する法律附則第3条第1項及び第11条の規定により同法の施行までの間に法制上の措置を講ずることとされている事項に関し、(1)憲法改正案に係る国民投票の投票権年齢を公職選挙法に定める選挙権年齢等に先行して18歳に引き下げるとともに、(2)専ら憲法改正案に対する賛成若しくは反対の投票等の勧誘又は憲法改正に関する意見の表明等としてなされる公務員の行為について国家公務員法等の規定の適用除外を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

(番号・下線:筆者)

▼論点(1)国民投票年齢の18歳先行引き下げ

 維新案・要綱では、次のように記されています。

<1>憲法改正国民投票の投票権年齢に係る経過措置規定等の削除
   国政選挙の選挙権年齢等の引下げに係る法整備規定及び当該引下げがなされるまでの間の憲法改正国民投票の投票権年齢に関する経過措置規定を削除すること。
(憲法改正手続法附則第3条関係)
<2>法制上の措置
   国は、この法律の施行後速やかに、年齢満18年以上満20年未満の者が国政選挙に参加することができること等となるよう、選挙権を有する者の年齢を定める公職選挙法、成年年齢を定める民法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとすること。
(改正法附則第2項関係)

 まず<1>ですが、附則第3条(第1項及び第2項)を削除するとしています。

 これにより、選挙年齢の引き下げ(公職選挙法改正)、成年年齢の引き下げ(民法改正)、その他の年齢条項を見直すという、附則第3条の宿題が消滅します。国民投票年齢に関しては本則第3条がそのまま適用され、満18歳以上ということになります。提案理由で述べられているとおり、国民投票年齢を先行して18歳以上とするのです。年齢が確定しない、という法解釈上の難点が解消されます。

 もっとも国民投票権は、選挙権と同じ参政権に属します。政治参加の観点で要求される判断能力に差異はないにもかかわらず、年齢において一致しないまま運用が進むことになります。これは、有権者の側にも大きな混乱を招きます。

 また<2>ですが、「この法律が施行されるまでの間に、」という削除前の附則第3条第1項の文言を消した上で、新たな宿題として、年齢条項の見直しを規定するものです。旧条項と書きぶりが似ていますが、宿題の期限が設けられていません。

 期限が明確でないことに加え、公職選挙法、民法以外に見直す法令の範囲も、一義的に確定しているわけでもありません。政治主導が強く働かないと、これまで同様、議論を停滞させ、問題を先送りさせるだけになりかねません。

 以上により、維新案が採用されれば、「国民投票年齢=18歳、選挙年齢=20歳」という、参政権年齢の分離、固定化につながる点が危惧されます。むしろ、年齢条項に係る法体系上の論点を集約し、公職選挙法、民法はもちろんのこと、その他の見直し対象となる法律(条項)を絞り込んだ(議論の出口を明確にした)うえで法案を提出するほうが、妥当と考えます。

▼論点(2)公務員法の政治的行為の制限規定の一部適用除外

 維新案・要綱では、次のように記されています。

(公務員の政治的行為の制限等に関する規定の適用除外)
 国会が憲法改正を発議した日から国民投票の期日までの間に公務員(日本銀行の役員を含む。)が行う行為であって、専ら国民投票運動(憲法改正案に対し賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘する行為をいう。)及び憲法改正に関する意見の表明並びにこれらに必要な行為としてされるものについては、次の規定は適用しないこと。
 1〜35 (略)
(憲法改正手続法第100条の2関係)

 まず、維新案では、附則第11条は削除することとされます(資料 p4)。

 元々、附則第11条で検討されるはずだった、国民投票における公務員の勧誘運動がどの範囲で許されるかという問題は、立法者によれば、公務員の国民投票運動は自由であるべきという要請と、公務員の政治的中立性を確保しなければならない要請との調和において、「許される行為」と「許されない行為」とを丁寧に仕分けする作業を行うことで、一定の解決が得られるはずでした。

 およそ、すべての国民投票運動について公務員法上の政治的行為の制限規定の適用を除外する「全面適用除外説」、国民投票運動の一部について適用を除外する「一部適用除外説」に分かれるところ、附則第11条は、後者の立場を採用したのです。一部適用除外とされる、その具体的範囲(許される行為の範囲)こそ問題の核心です。

 維新案も、一部適用除外の考え方に沿って設計されています。「専ら国民投票運動(憲法改正案に対し賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘する行為をいう。)及び憲法改正に関する意見の表明並びにこれらに必要な行為としてされるもの」について、各号に掲げる公務員法の適用を除外するとしています。

 「専ら」という文言が付いていることから判るように、維新案は、国民投票運動等を限定的に許す立場です。憲法改正の賛否の署名を収集する等、他の政治的行為が付随していると認められる場合には、適用除外とはなりません。

 この点、維新案では一部適用除外とされる範囲が、狭いと考えます。私見ですが、公務員の政治的中立性確保の観点からおよそ許されない政治的行為(国民投票運動の類型)は、政治権力の創出行為に主体的、直接的に関与するものに限られます。具体的には、公職の候補者等を支持する等の目的を以て行われる署名活動又は示威運動を伴った国民投票運動、公職選挙における投票の勧誘運動を伴った国民投票運動は許されない一方、その他の政治的行為が付随している国民投票運動は許されるという立場です。

 維新案との比較表です。○が許される行為、×が許されない行為です。

現行法 全面適用
除外説
一部適用除外説
維新案

私案

(1)憲法改正案に対する意見表明
(2)国民投票運動(専らの賛否の勧誘運動)
×
(3)公職の候補者等を支持する等の目的を
以て行われる署名活動又は示威運動を伴
った国民投票運動
× × × × × ×
(4)公職選挙における投票の勧誘運動を伴
った国民投票運動
× × × × × ×
(5)その他の類型を伴った国民投票運動((3)(4)以外)
× × × ×

 なお、要綱のとおり、第1号から第35号までは、上記「一部適用除外」となる公務員法のリストが掲げられています。その範囲については、妥当と考えます。

▼参考資料 
○衆議院憲法審査会事務局「衆憲資第73号 日本国憲法の改正手続に関する法律(憲法改正国民投票の投票権年齢に関する検討条項)に関する参考資料」(2012年2月)
○衆議院憲法審査会事務局「衆憲資第74号 日本国憲法の改正手続に関する法律(国民投票運動と公務員の政治的行為の制限に関する検討条項)に関する参考資料」(2012年3月)


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筆者プロフィール
南部 義典(なんぶ よしのり)(慶應義塾大学大学院法学研究科講師)
1971年岐阜県生まれ。95年、京都大学卒業。同大学院在学中に、国会議員政策担当秘書資格試験合格。2010年より現職。専門は国民投票・住民投票法制、議会オンブズマン法制。2007年、衆議院及び参議院の憲法調査特別委員会で、公述人として発言。2009‐10年、議会オンブズマン調査研究会事務局。2010年、憲法円卓会議(第II期)事務局。2012年、元衆議院議員の早川忠孝氏らと動態的憲法研究会を立ち上げ、共同代表を務める。著書に『Q&A解説・憲法改正国民投票法』現代人文社、2007年がある。

http://twitter.com/nambu2116
http://www.facebook.com/nambu.yoshinori
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